- 労働保険の基本的な仕組みと役割がわかる
- 労災保険と雇用保険の違いと特徴を理解できる
- 労働保険の加入義務と対象者を正確に把握できる
- 保険料の計算方法と納付手続きをマスターできる
- 労働保険の年度更新申告の実務手順がわかる
- 労働保険ってなんだろう?雇用保険と何が違うの?
- うちの会社は労働保険に入らないといけないの?
- 労働保険料はどうやって計算するの?
- アルバイトも労働保険に加入させないといけないの?
- 労働保険の年度更新って何をすればいいの?
- 労働保険の申告書の書き方がわからない
労働保険は事業主と従業員双方にとって重要な社会保障制度ですが、仕組みや手続きが複雑で理解しづらい面があります。この記事では労働保険の基本から実務上の注意点まで、若手会計士の経験を交えながらわかりやすく解説します。正しい知識を身につけて、適切な労働環境づくりにお役立てください。







労働保険とは?加入は義務なの?
労働保険とは、**労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険の総称**です。この2つの保険制度は、労働者の安全と生活を守るために国が運営する社会保険制度の一つです。






労働保険の法的根拠
労働保険は主に以下の法律に基づいています
- 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)
- 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)
労働保険の徴収等に関する法律第3条では「労働者を使用する全ての事業に関して、事業主は保険関係の成立について政府に届け出なければならない」と規定されています。
例外的に加入が任意となる事業
ただし、例外的に労働保険への加入が任意となる事業もあります:
事業の種類 | 任意適用の条件 |
---|---|
農林水産業 | 労働者が常時5人未満の個人経営の事業 |
建設業の下請け事業者 | 元請業者が一括して労災保険に加入している場合 |



労働保険の種類(労災保険・雇用保険)
労働保険は「労災保険」と「雇用保険」の2つの制度から成り立っています。それぞれの制度には異なる目的と特徴があります。
労災保険(労働者災害補償保険)
用語解説:労災保険
労災保険とは「労働者災害補償保険」の略称です。仕事中や通勤中の事故やケガ、業務が原因で発症した病気などに対して、医療費や休業補償などを行う制度です。
労災保険の主な特徴は以下の通りです。
- 目的: 業務上や通勤途上の災害に対する補償
- 対象者: すべての労働者(雇用形態や労働時間に関係なく適用)
- 保険料負担: 事業主が全額負担(労働者の負担なし)
- 保険料率: 業種によって異なる(0.25%〜8.8%)
- 給付内容: 治療費、休業補償、障害補償、遺族補償など









雇用保険
用語解説:雇用保険
雇用保険とは、労働者が失業した場合に失業給付を支給したり、労働者の能力開発やキャリア形成を支援するための保険制度です。
雇用保険の主な特徴は以下の通りです:
- 目的: 失業時の生活保障、労働者の能力開発支援
- 対象者: 一定の条件を満たす労働者(後述)
- 保険料負担: 事業主と労働者が分担
- 保険料率: 業種によって異なる(1.55%〜1.85%)
- 給付内容: 失業給付、育児休業給付、介護休業給付など









労災保険と雇用保険の比較表
項目 | 労災保険 | 雇用保険 |
---|---|---|
目的 | 業務上・通勤途上の災害補償 | 失業時の生活保障、能力開発支援 |
対象者 | 全ての労働者 | 一定条件を満たす労働者 |
保険料負担 | 事業主が全額負担 | 事業主と労働者が分担 |
保険料率 | 0.25%〜8.8% | 1.55%〜1.85% |
主な給付 | 療養給付、休業給付、障害給付など | 失業給付、育児休業給付、介護休業給付など |
労働保険に加入しなければならない人・事業
労働保険の加入義務は労災保険と雇用保険で少し異なります。それぞれの対象範囲を理解しましょう。
労災保険の対象者
労災保険は雇用形態や労働時間に関係なく、原則としてすべての労働者が対象となります。
- 正社員
- パートタイマー・アルバイト
- 契約社員
- 派遣社員
- 外国人労働者
- 試用期間中の労働者






雇用保険の対象者
雇用保険は労災保険と異なり、一定の条件を満たす労働者のみが対象となります。
雇用保険の対象となる条件
1. 週20時間以上働いていること
2. 31日以上の雇用見込みがあること






雇用保険の対象外となるケース
以下のケースでは雇用保険の被保険者となりません。
- 週の労働時間が20時間未満の人
- 雇用期間が31日未満と見込まれる人
- 季節的業務で週30時間未満の人
- 季節的業務で4カ月以内の期限で雇用される人
- 昼間部の学生(夜間・通信制の学生は対象)
- 会社の代表者や役員(ただし労働者性が強い役員は対象)
- 公務員









労働保険の保険料の仕組み
労働保険料はどのように計算され、いつ納付するのでしょうか。保険料の仕組みを理解しましょう。
労働保険料の計算方法
労働保険料は、労働者に支払った賃金総額に保険料率をかけて計算します。






業種別の保険料率(令和6年度)
業種 | 労災保険率 | 雇用保険率 | 合計保険料率 |
---|---|---|---|
金融業・保険業・不動産業 | 0.25% | 1.55% | 1.80% |
情報通信業 | 0.25% | 1.55% | 1.80% |
小売業 | 0.25% | 1.55% | 1.80% |
飲食店 | 0.25% | 1.55% | 1.80% |
清掃業・と畜業 | 1.30% | 1.65% | 2.95% |
製造業 | 0.50% | 1.55% | 2.05% |
建設業 | 2.00% | 1.85% | 3.85% |
林業 | 6.00% | 1.65% | 7.65% |
その他の事業 | 0.25% | 1.55% | 1.80% |






労働保険料の納付方法
労働保険料の納付は以下の流れで行います:
- 年度当初に概算保険料を申告・納付(4月1日〜7月10日)
- 翌年度に確定保険料を計算し、精算(前年度の賃金総額が確定した時点)






労働保険の年度更新手続き
労働保険の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までの間に行う必要があります。
年度更新の流れ
- 労働保険料申告書の作成
– 前年度の確定保険料の計算
– 新年度の概算保険料の計算 - 申告書の提出と保険料の納付
– 管轄の労働基準監督署または金融機関で手続き
– 電子申請も可能(e-Gov)






私が実際に体験した年度更新のトラブル












年度更新で必要な書類
- 労働保険料申告書
- 賃金集計表(全従業員の賃金を集計したもの)
- 納付書
- 前年度の確定保険料算定基礎賃金集計表**(前年提出の控え)






年度更新申告書の書き方のポイント
申告書記入時の注意点:
- 事業の種類の正確な選択(業種によって保険料率が異なる)
- 賃金総額の正確な記入**(賞与や残業代も含む)
- メリット制適用事業の確認(労災保険料率が変動する場合がある)
- 保険料率の適用誤りに注意(古い保険料率を使わない)



労働保険に関するよくある質問






Q. 労働保険の一括有期事業とは?









Q. 複数の事業所がある場合の手続きは?












Q. 労働保険に加入していない場合の罰則は?









Q. 役員も労働保険の対象?









労働保険制度の重要ポイント
労働保険は事業主と労働者の双方を守るための重要な社会保障制度です。適切に手続きを行い、法令を遵守することが求められます。
- 労働保険は「労災保険」と「雇用保険」の総称で、原則としてすべての事業主に加入義務がある
- 労災保険は全ての労働者が対象で、保険料は事業主が全額負担する
- 雇用保険は週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者が対象
- 保険料率は業種によって異なり、危険な作業が多い業種ほど高い
- 毎年6月1日〜7月10日の間に「年度更新」の手続きを行う必要がある
- 複数の事業所がある場合は「継続事業一括申請」で手続きを簡素化できる
- 加入義務があるのに未加入の場合、最大で懲役1年または100万円以下の罰金となる可能性がある
労働保険に関する知識を深め、適切な手続きを行うことは、事業主としての責任を果たすだけでなく、従業員が安心して働ける環境づくりにもつながります。不明点がある場合は、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
労働保険申告書の作成方法
労働保険の年度更新で最も重要なのが申告書の作成です。ここでは実際の申告書作成のポイントを解説します。
申告書作成の基本手順
- 賃金集計表の作成
- 保険料の計算
- 申告書への記入
- 提出と納付






賃金集計表のポイント
賃金集計表を作成する際の注意点
- 対象期間の確認: 4月1日から翌年3月31日までの1年間
- 対象となる賃金: 基本給、残業代、通勤手当、賞与など全ての給与
- 対象外となるもの: 退職金、結婚祝金などの臨時の給与は含まない
- 上限額の確認: 年間の賃金に上限額がある(令和6年度は1,800万円)






申告書への記入例
申告書の主な記入項目
- 事業の概要(事業の種類、事業場の名称・所在地など)
- 労働者数(常時使用する労働者数)
- 賃金総額(労災保険分と雇用保険分それぞれ)
- 保険料率(業種に応じた料率)
- 確定保険料の額(前年度分)
- 概算保険料の額(今年度分)
- 差引額(確定保険料と前納した概算保険料の差額)






申告書作成時のよくあるミス
- 保険料率の適用誤り(前年度の料率を使用する)
- 集計漏れ(賞与の計上忘れ、年度途中退職者の集計漏れ)
- 端数処理の誤り(千円未満の端数処理)
- 雇用保険の対象者の誤り(学生アルバイトを対象に含めてしまう)
- 徴収額と納付額の不一致(給与から徴収した雇用保険料と実際に納付する金額が合わない)



手続きの電子化と効率化
近年、労働保険関連の手続きは電子化が進んでいます。効率的に手続きを行うためのポイントを紹介します。
e-Govを利用した電子申請
電子申請のメリット。
- 24時間365日申請可能
- 記入ミスが少なくなる
- 添付書類を省略できる場合がある
- 窓口に行く必要がない






申請手続きの外部委託
手続きを専門家に委託するメリット。
- 専門知識不要でミスを防げる
- 時間と手間の節約になる
- 関連する他の手続きも一括して依頼できる






会計士のワンポイントアドバイス



保険料を節約するポイント
- 正確な業種分類の確認(誤った分類で高い保険料率を適用していないか)
- 雇用保険の対象者の適正な判断(対象外の人を含めていないか)
- メリット制の活用(労災事故が少ない場合は保険料率が下がる制度)



手続き漏れを防ぐためのチェックリスト
- 新規従業員が入社したら: 資格取得届(雇用保険)を提出
- 従業員が退職したら: 資格喪失届(雇用保険)を提出
- 事業内容が変わったら: 事業内容変更届を提出
- 会社の所在地が変わったら: 所在地変更届を提出
- 毎年6〜7月: 年度更新手続きを忘れずに



最後に









よくある質問
労働保険料の納付期限は、年度更新の期間である6月1日から7月10日までです。分納を選択した場合は、第2期が10月31日、第3期が翌年1月31日になります。期限を過ぎると延滞金が発生するため、必ず期限内に納付しましょう。
個人事業主本人は労働保険の強制適用対象ではありませんが、労働者を1人でも雇っている場合は、その労働者のために労働保険に加入する義務があります。また、自営業者本人が希望する場合は、「特別加入制度」を利用して労災保険に加入することができます。
申告を忘れていた場合は、速やかに最寄りの労働基準監督署または公共職業安定所(ハローワーク)に相談し、手続きを行いましょう。遅れた期間に応じて追徴金が発生する場合がありますが、自主的に申告することで状況が改善される可能性があります。長期間未加入の場合は社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
会社が倒産した場合、未払いとなっている賃金や退職金の一部が「未払賃金立替払制度」によって立て替え払いされます。また、労働者は離職後、ハローワークで手続きをすることで失業給付を受け取ることができます。倒産による離職の場合は、通常より給付日数が手厚くなる特例があります。
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