- 外注費と給与の区分けに関する税務上の考え方がわかる
- 外注費が否認されるリスクとその影響額が具体的にわかる
- 形式面・実質面から見た外注費の判断要素がわかる
- 税務調査で否認されないための具体的な対策方法がわかる
- 外注費と給与の違いがよくわからない
- 税務調査で外注費を否認されないか不安
- 外注契約の適切な証拠書類を揃えたい
- 請求書の正しい書き方を知りたい
- 税務調査で指摘されるポイントを事前に対策したい
法人経営において「外注費」と「給与」の区分けは、税務上の大きな争点となります。
一見似ているようで、税務上の取り扱いが大きく異なるこの二つの費用区分。適切に処理しないと、税務調査で否認され、多額の追徴課税を受けるリスクがあります。




なぜ税務署は「外注費」を「給与」に否認するのか?






消費税の課税関係
消費税における取扱いの違い
「外注費」は課税仕入れとして仕入税額控除の対象になりますが、「給与」は不課税取引となるため仕入税額控除の対象外です。












所得税(源泉所得税)の課税関係
源泉所得税における取扱いの違い
「外注費」は事業所得として支払側に源泉徴収義務がありませんが、「給与」は給与所得として支払時に所定の税率で源泉徴収する義務があります。






社会保険の適用関係
社会保険における取扱いの違い
「外注費」として支払いを受ける個人事業主は社会保険の適用対象外ですが、「給与」として支払いを受ける従業員は社会保険の加入対象となります。






否認された場合の影響額
外注費と給与の区分けが否認された場合、企業が負担する追徴税額は想像以上に大きくなります。以下に具体的な試算例を示します。
年間給与相当額 | 400万円/人 |
消費税追徴額 | 40万円/人・年 |
源泉所得税追徴額 | 15万円/人・年 |
社会保険料(会社負担分) | 112万円/人・年 |
5人分が5年間否認された場合の追加負担額は以下のようになります。
消費税・源泉所得税 | (40万円+15万円)×5人×5年=1,375万円 |
延滞税・加算税等 | 約225万円 |
社会保険料 | 112万円×5人×2年※=1,120万円 |
合計追加負担額 | 約2,720万円 |
※社会保険料は過去2年分のみ遡及されるのが一般的です






外注費と給与の判断基準
形式面での判断要素






用語解説:請負と雇用の法的定義
請負契約:当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる契約(民法第632条)
雇用契約:当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる契約(民法第623条)






実質面での判断要素(総合的に判断される)



判断要素 | 外注費の特徴 | 給与の特徴 |
---|---|---|
指揮命令系統 | 自己の責任と判断で業務遂行 | 指揮監督者から命令を受ける |
報酬の計算方法 | 出来高払い、変動費 | 日当計算、固定費 |
賞与・残業 | 無し | 有り |
福利厚生費 | 無し | 会社負担 |
工具・備品等の経費負担 | 自己負担 | 会社負担 |
請求書・領収書 | 有り | 無し |
飲食等の経費処理 | 交際費 | 福利厚生費 |
確定申告 | 有り(事業所得) | 無し(または給与所得のみ) |






税務調査対策:外注費否認を防ぐために準備すべき書類









1. 組織図・職制図
外注を発注元の指揮命令系統下に載せないように組織図を作成しましょう。被雇用者(給与所得者)は雇用者たる事業者に従属し指揮・監督を受けますが、請負者(外注、事業所得者)は独立した事業者であり、作業の結果に対してのみ責任を負い、原則として発注元の指揮・監督は受けません。



2. 適切な請求書の確保
請求書は外注費を証明する最も重要な書類です。以下の点に注意して請求書を確保・保管しましょう。



NG表現を避ける
以下のような給与と疑われる表現は使用しないようにしましょう。
- 「日当」「残業」「早出」「人工」
- 「○○○○円/時」「○○○○円/日」「人月」
- 「超過手当」などの文言表示






現場名を明記する
請求書には具体的な業務内容や現場名を明記しましょう。「○○現場における基礎工事一式」のように特定の業務を請け負ったことを明確にします。
金額計算の基準を記入する
外注契約書等を備えていない場合は、金額計算の基準を記入することで請負契約の実態を示します。例えば「一トンあたり〇円」「施工面積〇平方メートルあたり〇円」など、出来高に応じた計算基準を記載します。
屋号をつける
外注先には個人名だけでなく屋号をつけてもらい、横判・丸印等を作成してもらいましょう。「(屋号〜) 代表 (氏名) 印」のように記載することで、個人事業主であることを明確にします。



3. 領収書・受領書
支払いの証拠となる領収書や受領書は、外注先が発行したものを保管します。銀行振込の場合は振込控えも重要な証拠となります。領収書には屋号と氏名、押印があることが望ましいです。
4. 注文請書
注文請書は基本的に作成しませんが、作成する場合は収入印紙を貼付します。契約の実態を示す重要な書類となるため、内容に矛盾がないように注意しましょう。
5. その他(建設業関連)
建設業では「出面帳」や「社長の日記」なども重要な証拠となります。従業員と外注が出ていた現場名・回数などを別々に記録し、社員と混在しないように管理することが望ましいです。



実質面での外注関係を証明するポイント






1. 経費負担の明確化
外注先は自ら材料、工具、備品などを用意し業務を行うのが原則です。従業員は会社の資材を使って作業を行います。ヘルメット、作業着、工具、名刺代、机、ロッカー費用等は別建てで請求するか、外注先が自己負担するよう明確にしましょう。



2. 社会保険関連
外注に対する社会保険料は一切負担しません。「一人親方」は労災保険上の労働者には該当しません。また、団体生命保険(社員であることが前提)にも加入させないようにしましょう。
3. 確定申告の徹底
外注が確定申告をしている事実は、間接的に従業員ではないという証拠になります。常用雇用と疑われやすいような場合には、申告の有無を確認・徹底することが重要です。



## 税務調査での対応ポイント



調査官の確認ポイント
- 下請けの電話番号を確認して、請求書の作成者や内容の確認
- 取引が終わった人への連絡による事実確認
- 「指揮・監督」関係の有無に関する質問
- 現場での作業実態に関する具体的な質問
特に建設業、運輸業、理美容業などは外注と給与の区分けについて重点的に調査される業種です。









法的根拠






所得税法上の区分け
所得税法第27条と第28条では、「事業所得」と「給与所得」を以下のように区分しています。
所得税法上の定義
事業所得(所得税法第27条):事業から生ずる所得をいう。
給与所得(所得税法第28条):俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。






国税庁の判断基準
国税庁は所得税基本通達において、事業所得と給与所得の区分について以下のような判断基準を示しています。
所得税基本通達 2-8
事業所得と給与所得との区分は、次の諸点を総合勘案して判定する。
- その契約に記載された内容が請負契約的か、雇用契約的か。
- 役務の提供の内容が指揮監督下で行うものか、それとも独立して行うものか。
- まかされた仕事の危険と責任は誰が負うのか。
- 報酬額の算定方法が時間給か、出来高払いか。
- 材料や用具等の負担関係はどうなっているか。



裁判例からみる判断基準
過去の裁判例では、外注費と給与の区分けについて、以下のような判断がなされています。
裁判例 | 判断ポイント |
---|---|
東京高裁平成9年12月24日判決 | 指揮監督関係の有無、報酬の性質(労務対価か成果対価か)が重視された |
最高裁平成13年7月13日判決 | 業務の独立性、第三者代行可能性、報酬の算定方法が判断基準として示された |






よくある質問(FAQ)
Q1: 外注費として認められる契約書の書き方






- 業務の範囲と成果物の明確化(〇〇の制作、△△の施工など)
- 業務遂行の裁量権が外注側にあることの明記
- 報酬の算定方法(出来高払いであることの明記)
- 材料・道具等の費用負担関係
- 第三者への再委託可能性(原則可能であること)



Q2: 建設業での外注と一人親方の扱い






- 会社の制服を着用している
- 会社の朝礼に参加している
- 会社の工具や車両を使用している
- 他社の現場に入ることがない(専属性が高い)
- 作業時間が会社に管理されている



Q3: IT業界でのフリーランス契約






- 作業場所は原則として外注側で確保(在宅やコワーキングスペースなど)
- 納品物や成果物を明確に定義する
- 報酬は工数(人月)ではなく、タスク完了や機能実装ごとの設定が望ましい
- 業務時間の指定や日報提出義務などを課さない
- 会社のメールアドレスや名刺を発行しない



Q4: 否認された場合の対応策






- 請負契約の実態を示す追加資料を提出する(メールでのやり取り、複数の取引先との契約実績など)
- 外注先に確認調査が入る可能性があるため、事前に状況を説明しておく
- 特に重要な証拠がある場合は、税理士などの専門家を通じて説明する
- 一部のみ否認されるケースもあるため、影響範囲を最小限に抑える交渉も検討
- 今後の対策として、契約形態や業務フローの見直しを行う



Q5: 役員の親族を外注として扱う場合












会計士ワンポイントアドバイス



1. 請求書は毎月少しずつ変化させる
毎月まったく同じ金額、同じ内容の請求書は固定給と疑われやすいです。業務内容や金額に多少の変動があることで、出来高払いの実態をアピールできます。



2. 外注先との打ち合わせ記録を残す
業務の依頼や成果物の確認に関するメールやチャットのやり取りを日付付きで保存しておくことで、請負契約の実態を示す補強証拠になります。



3. 消費税の10%課税を明示する
外注費の請求書には、金額とは別に消費税額を明記してもらいましょう。これは「課税取引」であることを示す重要な証拠になります。



4. 外注先の事業実態を確認する
外注先が他の取引先とも契約しているか、確定申告をきちんと行っているかなどを定期的に確認しておくと安心です。必要に応じて事業実態を示す証拠を提出してもらうことも検討しましょう。



5. 仕事の結果に対する責任関係を明確に
業務上のミスや納期遅延に対する責任、瑕疵担保責任などを契約書に明記しましょう。請負契約では「仕事の結果に対する責任」が外注側にあることが重要なポイントです。






まとめ:外注費と給与の区分けポイント
外注費と給与の区分けは、税務上非常に重要な問題です。否認されると消費税、源泉所得税、社会保険料など多方面で大きな追徴課税リスクがあります。適切な対策を講じて、税務リスクを回避しましょう。
- 請負契約の実態を反映した契約書を作成し、業務の独立性を明確にする
- 請求書には給与と疑われる表現を避け、必ず屋号と印鑑を入れてもらう
- 報酬は固定額ではなく出来高払いとし、金額に変動をつける
- 業務に必要な工具や備品は原則として外注側の負担とする
- 指揮命令関係がなく、業務遂行方法は外注側の裁量に委ねる
- 外注先には確定申告の実施と、他の取引先との契約も推奨する
- 打ち合わせ記録や成果物の確認記録など補強証拠を残しておく
外注費と給与の区分けは形式だけでなく実態が重要です。日々の業務フローや指示の出し方、報酬支払いの方法など、総合的に請負契約としての実態を整えることが、税務リスク回避の鍵となります。不安な点がある場合は、早めに税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
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