- 貸借対照表から会社の財政状態を正確に読み取れるようになる
- 損益計算書から収益構造と問題点を発見できるようになる
- 現預金増減分析の落とし穴(消費税の影響など)を回避できる
- 社長への財務諸表説明のコツを習得できる
- 財務諸表を見ても何が問題かわからない
- 社長に財務状況をうまく説明できない
- 数字から経営改善点を見つけられない
- 現預金が増えているのに利益が出ていない理由がわからない
財務諸表は会社の健康診断書のようなものです。適切に読み解くことで、会社の現状把握だけでなく、将来の改善点まで見えてきます。この記事では、貸借対照表と損益計算書の見方を中心に、現預金分析の落とし穴や社長への効果的な説明方法まで解説します。




会計の目的を理解する
財務諸表を読み解く前に、そもそも会計にはどんな目的があるのかを押さえておきましょう。会計には大きく分けて2つの目的があります。
財務会計 | 税務申告や会社関係者(銀行など)への情報提供 |
管理会計 | 経営者が会社の方針を決めるための情報提供 |
特に管理会計の視点からは「いかに正確に早いデータを作り上げるか」がカギとなります。
貸借対照表の読み方:会社の財政状態を知る
貸借対照表(BS)は会社の財政状態を表す重要な書類です。特に以下のポイントに注目して読み解きます。






1. 現預金の増減をチェック
現預金の増減は会社の儲かっているかどうかを示す重要な指標の一つです。この動きを以下の3つの要素に分解して分析します。
- 業務の利益(当期利益):本業での稼ぎ
- 設備投資(固定資産の取得):将来のための投資
- 財務(借入金の増減):資金調達の状況
これらの要素を組み立て直したものがキャッシュフロー計算書ですが、貸借対照表でも十分代用可能です。
2. 現預金増減分析の落とし穴:消費税の影響
現預金の増加は会社の儲けを示す指標として便利ですが、仮受消費税の影響を受けるため、必ずしも純粋な利益を反映しているわけではありません。これを正しく理解しないと、経営判断を誤る可能性があります。






消費税の影響を正しく分析するためのポイントは以下の通りです。
項目 | 説明 |
---|---|
仮受消費税の影響 | 売上時に預かった消費税(10%)は一時的に現預金を増加させるが、実際は納税義務があり会社の利益ではない |
仮払消費税との相殺 | 仕入れ等で支払った消費税(仮払消費税)と相殺して差額を納税するため、最終的な納税額は預かった消費税全額ではない |
消費税の納税月 | 消費税の納税月になると、現預金残高が大きく減少する(3月決算の場合5月末) |
この影響を排除して純粋な営業成績を見るには、現預金の増減から消費税の影響額(仮受消費税-仮払消費税の差額)を差し引いて考えることが重要です。特に高額商品を扱う業種や、消費税の免税事業者から課税事業者に変わった場合は注意が必要です。
3. その他の重要チェック項目
チェック項目 | 確認ポイント |
---|---|
売掛金 | 長期滞留債権はないか、支払条件の見直しが必要か |
受取手形 | 手形決済のリスクを認識しているか |
貸付金 | 回収見込みはあるか(特に社長一族への貸付は要注意) |
棚卸資産 | 適正在庫か(過大なら不良在庫、過小なら販売機会損失) |
固定資産 | 必要なものを必要な時期に購入しているか、遊休資産はないか |
買掛金 | 支払サイトは適切か |
借入金 | 金利は適正か、返済計画は立てているか |
資本 | 自己資本比率は30%以上あるか、債務超過になっていないか |
特に注意すべきは、役員報酬 = 社長一族の生活費 ± 社長の長期借入金の増減 ± 個人通帳の増減という関係です。会社と個人の資金の流れを総合的に見ることが重要です。
損益計算書の読み方:会社の経営成績を知る
損益計算書(PL)は会社の経営成績を表します。基本的な構造は以下の通りです。
- 利益 = 収入 – 経費
- 収入 = 単価 × 個数
- 経費 = 変動費 + 固定費
- 変動費 = 収入 × 変動比率






1. 売上を増やす方法
方法 | 具体策 |
---|---|
単価を上げる | 価格の見直し(同業と比較して適正か) |
新規性のある製品・サービスの開発 | |
ニッチ市場のオンリー1、または地域ナンバー1を目指す | |
ブランドイメージ確立のための工夫 | |
数量を増やす | 既存顧客の深堀り(同じ商品or品揃えを横に広げる) |
顧客満足度向上による口コミ促進 | |
新規顧客開拓(交際費、広告宣伝費の活用) |
2. 利益を増やすための重要指標
売上原価率(粗利)は業種によって適正値が異なりますが、同業他社と比較して検討することが重要です。
- 粗利が悪い場合:利益が出にくいため、数量を稼げるビジネスモデルか検討
- 粗利が良すぎる場合:長期的には顧客が離れる可能性があるため注意
特に重要なのは、費用が変動費か固定費かを意識することです。変動比率を適正にコントロールしつつ、固定費を削減することで利益率を改善できます。
3. 主要な費用項目のチェックポイント
費用項目 | チェックポイント |
---|---|
役員報酬 | 前年の繰越赤字の有無、社長の住宅ローン状況、事故リスクなどを考慮 |
給与手当 | 賞与を含めて適正か、成果が見える形の分配になっているか |
広告宣伝費 | 売上増加のために必要な投資として考える |
交際費 | 売上・利益に貢献しているか確認(業種によって適正額は異なる) |
保険料 | 損金算入できるものと保険積立金の区分、保障内容の適正さ |
地代家賃 | 設定と見直し、必要に応じて店舗移転も検討 |
支払利息 | 金利は適正か、より良い融資条件はないか |
社長への財務説明のコツ
財務担当者の重要な役割は、正確なデータを作成するだけでなく、社長にわかりやすく説明し、改善点を一緒に考えることです。






- データの精度を確保する
領収書を確認し、処理の誤りを訂正する - 定期的な説明の機会を設ける
最低3ヶ月に一度程度、積極的に社長に話しかける - 基本から丁寧に説明する
社長は貸借対照表、損益計算書の用語すら知らないものとして説明 - 現預金の増減と消費税の影響を区別して説明する
税抜きの実質的な収益力がわかるよう補足する - 改善点を一緒に考える
会計という共通言語を元に、会社の問題点と将来の方向性を話し合う
社長が最も知りたいのは、「儲かっているか」「問題点はどこか」「将来のために何をすべきか」という3点です。現場を最も知っているのは社長ですので、専門的な知識や情報を提供しつつも、最終的な判断は社長に委ねることが重要です。
財務分析を深めるための追加ステップ
基本的な財務諸表の読み方を理解した後は、さらに分析を深めるために以下のようなステップに進みましょう。
- 変動損益計算書の作成
変動費と固定費を区分した損益分岐点分析 - 前期比較・五期比較財務諸表の活用
経年変化から傾向を把握する - 予算実績管理の導入
計画と実績の差異分析で問題点を早期発見 - 税抜きキャッシュフロー分析
消費税の影響を排除した純粋な営業キャッシュの把握 - 部門別損益管理
複数セクションがある場合は部門ごとの収益性を把握 - 同業他社比較
BASTなどのデータベースを活用した業界内での位置づけ確認
まとめ:財務諸表を活用した経営改善
財務諸表は単なる過去の記録ではなく、会社の現状把握と将来の方向性を定めるための重要なツールです。
- 貸借対照表では現預金の増減を中心に、会社の財政状態を把握する
- 現預金増加の分析では消費税(仮受消費税)の影響を考慮する
- 損益計算書では変動費と固定費を区分し、収益構造を理解する
- 社長への説明は基本用語からわかりやすく、定期的に行う
財務諸表の読み方をマスターすることで、会社の健全性を一目で見抜く力が身につきます。社長と共に経営改善の方向性を的確に判断できるようになります。






コメント