はじめに:建物の取得費算定の重要性
新築の建物を取得した場合であっても、すべてが「建物」として計上できるわけではありません。一部は「建物付属設備」や「構築物」となります。また、大規模なリフォームを行った際には、トイレ・電気設備・ガス設備など複数の設備の修繕を同時に行うことが多く、工事の総額をこれらの各種工事に按分する必要があります。
今回は、建物を譲渡して確定申告をすることを前提として、建物新築時やリフォーム時に発生する工事原価の按分方法について詳しく解説します!







- 建物取得費の按分計算が必要な理由とそのメリット
- 新築時の建物・建物付属設備・構築物への按分方法
- リフォーム費用の資産計上と費用処理の判断基準
- 共通費を適切に按分するための計算手順
- 按分計算のミスを防ぐための実務上のポイント
- 見積書に詳細な内訳がない場合の按分方法がわからない
- リフォーム費用をどこまで取得費に含められるか知りたい
- 按分計算を間違えた場合のリスクが不安
- 共通費の按分方法が複雑でわからない
- 税務調査で指摘されないための資料の保存方法を知りたい
基本情報:按分計算の基礎知識
建物取得費に関する主な法的根拠
所得税法施行令第6条(減価償却資産の範囲)では、建物と建物付属設備を別の減価償却資産として定義しています。また、所得税法施行令第79条(譲渡所得の収入金額)及び第82条(譲渡所得の取得費)において、取得費に含まれる金額の範囲が規定されています。






按分計算が必要となる場面
場面 | 按分が必要な理由 | 主な区分 |
---|---|---|
建物新築時 | 減価償却資産の区分・耐用年数が異なるため | 建物、建物付属設備、構築物 |
リフォーム時 | 資産計上と費用処理を区分するため | 資産計上対象、費用処理対象 |
共有財産の購入時 | 持分に応じた取得費を計算するため | 各共有者の持分割合 |
事業用・居住用の併用物件 | 事業用部分と居住用部分を区分するため | 事業用割合、居住用割合 |
按分計算の基本的な考え方






用語解説:按分(あんぶん)
按分とは、全体の費用や金額を一定の基準(面積比、金額比など)に従って配分すること。税務上は、一括で支払った費用を適切な資産区分や費用区分に割り当てるために用いられる重要な手法です。
建物新築時の工事原価の按分方法
按分の基本的な考え方
建物を新築した場合、工事費用を以下の3つに分類して計算します
- 建物本体に係る費用:建物自体の構造部分(基礎、躯体、屋根など)
- 建物付属設備に係る費用:空調設備、電気設備、給排水設備など
- 構築物に係る費用:駐車場、塀、外構工事など






按分計算の手順
按分計算は以下の手順で行います
- 見積書・契約書の確認:各工事項目の金額を把握
- 工事費用の分類:
- 建物本体に係る工事費用
- 建物付属設備に係る工事費用
- 構築物に係る工事費用
- 共通費(設計料、諸経費など)
- 共通費の按分:直接費(建物、建物付属設備、構築物)の金額比率に応じて共通費を按分
- 按分結果の集計:各区分ごとの金額を集計
按分計算の具体例






【具体例】総工事費3,000万円の住宅新築工事の場合
工事項目 | 金額 | 区分 |
---|---|---|
基礎工事 | 400万円 | 建物 |
躯体工事 | 800万円 | 建物 |
屋根・外壁工事 | 500万円 | 建物 |
内装工事 | 400万円 | 建物 |
電気設備工事 | 200万円 | 建物付属設備 |
給排水設備工事 | 250万円 | 建物付属設備 |
空調設備工事 | 150万円 | 建物付属設備 |
外構工事 | 100万円 | 構築物 |
諸経費 | 200万円 | 共通費 |
合計 | 3,000万円 |
①直接費の集計
– 建物:2,100万円(基礎+躯体+屋根外壁+内装)
– 建物付属設備:600万円(電気+給排水+空調)
– 構築物:100万円(外構)
– 直接費合計:2,800万円
②共通費の按分
共通費の按分率:
– 建物:2,100万円÷2,800万円=75%
– 建物付属設備:600万円÷2,800万円=21.4%
– 構築物:100万円÷2,800万円=3.6%
共通費(諸経費)の按分額:
– 建物:200万円×75%=150万円
– 建物付属設備:200万円×21.4%=42.8万円
– 構築物:200万円×3.6%=7.2万円
③按分後の最終金額
– 建物:2,100万円+150万円=2,250万円
– 建物付属設備:600万円+42.8万円=642.8万円
– 構築物:100万円+7.2万円=107.2万円
– 合計:3,000万円






按分計算における注意点



- 工事が複雑になるほど按分計算も複雑になる
- 事務所によって按分方法が異なる場合がある
- 全額を建物とすると減価償却費が小さくなり、所得が大きくなるリスクあり
- 後のリフォーム費用との整合性も重要
- 客観的な基準で按分することが税務調査対策として重要
リフォーム費用の按分方法
リフォーム費用の基本的な考え方






リフォーム費用の取り扱いには、以下の2つの方法があります:
1. 資産として計上する場合
– 建物や設備の価値を高めるもの
– 耐久性を向上させるもの
– 機能を追加・拡張するもの
2. 費用として処理する場合
– 原状回復的な修繕
– 小規模な補修
– 定期的なメンテナンス
譲渡所得の計算においては、資産計上できるリフォーム費用は、取得費に加算できるため、所得が小さくなり納税者に有利となります。
用語解説:資産計上と費用処理
「資産計上」とは、支出した金額を会社の資産として貸借対照表に計上すること。一方、「費用処理」とは支出した金額をその年度の経費として処理することです。資産計上した場合は減価償却を通じて複数年にわたって費用化しますが、費用処理した場合はその年度で全額経費になります。
リフォーム費用の按分計算手順
リフォーム費用の按分は以下の3段階で行います:
手順1:工事を3つに分類する
– 資産計上対象:給排水設備工事、電気設備工事など
– 共通費:解体工事、廃材処理費用など
– 対象外(費用処理):小規模修繕、クリーニングなど
手順2:共通費を按分する






共通費の按分方法
1. 資産計上対象と対象外の金額比率を計算
2. その比率に応じて共通費を按分
手順3:最終的な資産計上額を計算
対象外に按分された共通費を含む金額は無視し、資産計上対象に集計された金額(本体+按分された共通費)を最終的な資産計上額とします。
リフォーム費用按分の具体例






【具体例】総額500万円のリフォーム工事の場合
工事項目 | 金額 | 区分 |
---|---|---|
キッチン設備工事 | 150万円 | 資産計上対象 |
浴室設備工事 | 120万円 | 資産計上対象 |
電気設備工事 | 80万円 | 資産計上対象 |
壁紙張替え | 50万円 | 対象外(費用) |
床補修 | 30万円 | 対象外(費用) |
解体・廃材処理 | 40万円 | 共通費 |
諸経費 | 30万円 | 共通費 |
合計 | 500万円 |
①各区分の集計
– 資産計上対象:350万円(キッチン+浴室+電気)
– 対象外(費用):80万円(壁紙+床)
– 共通費:70万円(解体+諸経費)
– 直接費合計:430万円(資産+対象外)
②共通費の按分
共通費の按分率:
– 資産計上対象:350万円÷430万円=81.4%
– 対象外(費用):80万円÷430万円=18.6%
共通費の按分額:
– 資産計上対象:70万円×81.4%=57万円
– 対象外(費用):70万円×18.6%=13万円
③最終的な資産計上額と費用処理額
– 資産計上額:350万円+57万円=407万円
– 費用処理額:80万円+13万円=93万円
– 合計:500万円



按分計算における実務上のポイント
会計士の実務体験から









按分計算のための資料保存のポイント
- 建築・リフォーム時の見積書は詳細な内訳付きのものを保管
- 工事写真やビフォーアフター写真も保存(特に大規模リフォーム時)
- 支払いの領収書や振込記録も証拠として保管
- 契約書には工事内容の詳細が記載されているか確認
- 按分計算の根拠資料として少なくとも7年間は保管






6. よくある質問






Q1: 按分計算の資料がない場合はどうすればいいですか?






Q2: 譲渡所得の計算で、すべてのリフォーム費用を資産計上していいですか?






Q3: 按分計算を間違えていた場合のリスクは?






Q4: 中古物件購入時の按分はどうすればいいですか?






まとめ:適切な按分計算のために
建物取得費の按分計算は複雑ですが、適切に行うことで節税効果が期待できます。以下のポイントを押さえておきましょう:
- 建物・建物付属設備・構築物の区分を明確にする
- 共通費は適切な基準で按分する
- リフォーム費用は資産計上できるものと費用処理すべきものを区分する
- 按分計算の根拠となる見積書や契約書を保管する









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